エピソード52006/01/01 16:15

「誰もいそがない町」に収められた各編についての、エピソードを書いていく。


電気虫
・・・これは一風変わった話。この本の中では、だ。
が、よく考えてみると従来の藤井青銅路線の中では、むしろ正統派かもしれない。この前段のインチキ科学的なアプローチというものが、ぼくはとても好きなのだ。
だって、あなたは、ダムで電気ができる仕組みというものが、わかっているだろうか??


冬のユーレイ
・・・この本は「ショートショート」と「詩」と「童話」と、なぜか「マンザイ」をミックスさせたテイストを狙っている。そのマンザイ部分を担っているのが、この話。あとに出てくる「拡大季節会議」も、そう。
これまた、この本の中では異質だが、従来の藤井青銅路線では正統派の話といえよう。


波打ちぎわにて
・・・ぼくは、砂浜の波打ちぎわを歩くのが好きだ。あれは遠目に見ればロマンチックかもしれないが、実際に歩くとけっこう雑多なゴミやなんかが流れ着いているものだ。海流や風の関係で流れ着くのだろうが、「いったい、どうしてこんなものが?」と思うこともある。
島崎藤村なら「椰子の実」を書いたが、ぼくだとこういう話になってしまうのだ。


(続く)

エピソード62006/01/04 00:09

「誰もいそがない町」に収められた各編についての、エピソードを書いていく。


春風のドレス
・・・これは、かつて「プリズム・ショット」という本に入れていたストーリー。大変評判がよかったものなので、もう一度陽の目を見せてやりたくて再録した。自分でも、どうしてこんな美しい話が書けたのか、今となっては、さっぱりわからない。
むしろ、書いてから時間が経ったために、たんなる一読者としてこのストーリーを楽しんでいる自分が、面白い。


知らなければならないこと
・・・当初ラジオ番組用に書いた時はもう少し長く、遊びの文章があった。本に入れる時その部分をカットしたので、メッセージ色が強くなってしまった。
が、まあ、これはこれでいいのではないかと思っている。


拡大季節会議
・・・ぼくはいま、落語の「まくら」だけを紹介するという一風変わった番組をやっているが、この話は、まさに「まくら」の小噺かもしれない。なんとものんびりとしたバカバカしい話だ。
美しいストーリー中心の本に、どうしてもこういう話も入れたくなってしまうのがぼくの特徴。これをどう思うか、人によって評価が分かれるのだろうが・・・。


(続く)

エピソード72006/01/09 13:49

「誰もいそがない町」に収められた各編についての、エピソードを書いていく。


自分というものをしっかりと
・・・一見、メッセージ色の強いタイトルだが、中味はまるで違う。前出の「ユーレイ」や「季節会議」と同様の、実にバカバカしい話。
ぼくは、海外のユーモアスケッチといった類の文章を読むのが好きなのだが、そこに時に「教訓・・・」というテクニックがある。それをやってみたくて、書いた。


誰もいそがない町
・・・結果的に本全体のタイトル作となった。が、別にそんなつもりでこの話を書いたわけではなく、また、本全体を代表するテーマとしてこのタイトルを考えたわけでもない。元々はワン・オブ・ゼムだったのだ。
これを本のタイトルに選んだのは、出版社の社長さん。なるほど、つけてみれば、それなりに本全体のトーンを現している。


少しずつ死んでゆく
・・・書きおろし作。以前からずっとこういうことは考えていた。だが、さすがに元の番組(日曜の朝放送)でこんな内容の話を発表するわけにはいかなかった。これともう一作「クッキーの・・・」という作品が、同じテーマを扱っている。最初は一つの作品だったが、書いているうちに二つの作品に分けた。その理由は後述する。


(続く)

エピソード82006/01/19 10:48

「誰もいそがない町」に収められた各編についての、エピソードを書いていく。


点滅
・・・ケガをした時にできる「かさぶた」というのがありますね。
ぼくは、都会の中のあちこちで見かける「工事中」の現場を見ると、あれを連想するのだ。血と体液をにじませながら、なんとか現状回復しようとしている部位なのではないか。・・・と思って書いた話。ぼくだけの、特殊な見かたかもしれないと思っていたのだが、意外に何人かに「いいね」と言われたので、収録した。
さて、「工事現場」が「かさぶた」ならば、そこにわらわらと集まって工事を急ぐ「人間たち」は、なんだろう?

勇敢な洗濯機
・・・このタイトルの不可思議なバカバカしさがいい。
童話では、人々の周りにある森の木や花や泉や動物たちに、当たり前のように「人格」がある。ですがね、現代ではぼくたちのまわりに木や泉はない。周囲を見回すと、電気製品に囲まれているじゃないか。ならば、現代の童話では電気製品に「人格」があるべきなのではないか?と思って書いた。



(続く)

エピソード92006/01/22 22:40

「誰もいそがない町」に収められた各編についての、エピソードを書いていく。


世界で一番の木
・・・これは最初の放送時、オンエア直後に「原作を教えてください」と問い合わせがあった作品だ。タクシーの中で聞いていて、気になってしかたなく、降車してすぐ電話したという。
作者冥利につきる。電話の相手が若いサラリーマン風の方だったと聞いて、ぼくが仮想リスナーにしている相手にちゃんと届いてるという自信をもった。自分でも気にいっている。
この本の中では、かなり詩的・絵本的な作品のひとつ。

風船の墓場
・・・ぼくはずっと不思議でならなかった。かつてはイベント時とかに、大量の風船を空に放った。あれは、どこまで飛んでいくんだろう?と。
多くは割れたり、地上に落ちたりするだろうが、中にはふわふわと飛び続けるものもあるだろう。それは、どこへ・・・?
子どもの頃のそんな疑問が、大人になってひょこっとこんな話にまとまってしまうのが、我ながら面白い。


ちょっと海へ
・・・今回この本をまとめるにあたって、「海」をモチーフにした作品が多いことに気がついた。海の近くで育ったせいか、ぼくは海が好きだ。サーフィンやヨットをするわけではない。そういった、いわゆる「海の男」ではないが、でも好きだ。
読者へのメッセージということ以前に、ぼく自身が、この乾いた都会の中で、海を求めてるのかもしれない。



(続く)