こんなにも、いそがない企画152005/11/17 01:16

「誰もいそがない町」(ポプラ社)という本の出版に至る、あまりにもいそがない物語を書きおこしている。

(続き)
「一身上の理由により、退社します」
というわけで、熱心に頑張ってくれたO氏とのつながりが切れてしまった。

なお、いちおう誤解のないように書いておくが、この本の出版でうろうろしている十数年の間でも、他の本はちゃんと出せているのだ。大手の出版社から、それなりの部数で、何冊も。評判だって(自分でいうのもナンだが)、まぁ、そこそこのようだ。
作詞も、依頼をしてくれる方がいて、何曲か書いた。
テレビ、ラジオ番組の脚本、構成も、ありがたいことにずっとお声がかかる。
一方で、まだ有名でなかったいっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行ってブレイクの手伝いをしたし、軽い気持ちで仕掛けたギャル文字もちょっとしたブームになった。
ぼくが面白いと思ってやった仕事は、まぁ、わりといい打率でヒットしているのだ。

「だのに、なぜ?」と思う。
なぜ、この本の企画だけが、難航するのだろう?
そこのところが、不思議でならなかった。
不思議であると同時に、面白かった。こんなにもうろうろしている企画だからこそ、世に問うてみたい。どんな反応があるのだろう?
だから、ぼくは余計に出版にこだわった。なぁに、あせることはない。時間をかけてもいいので気長に待とうじゃないか……と。そう、まるで本のタイトルのように「いそがない」気分になったのだ。

元々、この本のタイトルは別のものを考えていた。最終的に「誰もいそがない町」というタイトルになったのだが、今にして思えば、あらかじめこのタイトルが決められていて、ぼくがそういう気分になるまで神様がじっと待っていたのかもしれない。

最初に原稿を書いてから13年6ケ月。朗報は、思わぬ方からやってきた。
(続く)

こんなにも、いそがない企画162005/11/19 11:51

「誰もいそがない町」(ポプラ社)という本の出版に至る、あまりにもいそがない物語を書きおこしている。

(続き)
数ヵ月後、O氏から、突然、メールが来た。
「牧野出版という会社に移りました。ここで、例の本の企画を通しました」

驚いた。
理由その1 S社で迷惑をかけたので、以来、ぼくは彼にこの企画の話は触れないようにしていた。
その2 会社を移った当初というのはいろいろ大変だろう。で、落ち着くまでは連絡もしなかった。
なのに、だ。彼は勝手に(いい意味だが)ぼくの企画を出し、通してしまったのだ。嬉しさよりも、驚きの方が先に立った。なんだか、これじゃ、ぼくの企画を通すために転職したみたいじゃないか!…と。もちろん、そんなわけはないが。

続けて、彼は言う。
「わが社は、大手のポプラ社と因縁浅からぬものがあります。牧野出版からそのまま出すことも可能なんですが、ウチが作ってポプラ社から出すというやり方も探ってみます。その際、編集は私がやりますので、ご心配なく」
なんという配慮。編集者の鑑、とはこういうことか!

ここからは早かった。トントン拍子に話は進む。ポプラ社が出してくれることになった。中の一篇から、タイトルが決まった。「誰もいそがない町」。世間はスローライフという流行り言葉に便乗した本と見るかもしれないが、なにしろ最初に書いたのは14年前。スローライフという言葉はおろか、そういう考え方すらなかった時代なのだ。
活字のフォントも、わざと古いタイプのものを探して使ったという。このへんはO氏のこだわりだ。
表紙デザインをしてくれた大森氏は、原稿を読んで、
「これは各篇のタイトルが面白い。タイトルを並べるデザインにしましょう」
と提案した。
そんなこと思いもしなかったが、なるほど、言われてみればそうかもしれない。自分では気付かない部分があるものだ。

こうして、これまで13年以上、ゆっくり、のんびり、時には回り道をしながら、まさにいそがずに進んできた企画は、わずか3ヶ月後に、本屋に並んでしまったのだ。いそがないにも程があるが、いそぐにも程がある!
(もう少し、続く)

こんなにも、いそがない企画172005/11/22 02:09

「誰もいそがない町」(ポプラ社)という本の出版に至る、あまりにもいそがない物語を書きおこしてきた。

(続き)
現在、「誰もいそがない町」は発売され、書店に並んでいる。
いろいろあっただけに、感慨深い。
これまで、何度かうまくいかなくなるたびに、ぼくは
「この原稿は、出版に値しないんだろうか?」
と不安になり、原稿を読み直し、
「いや。やっぱり、いい本になると思う」
と思い直す。
・・・という作業を、何回も繰り返してきた。

以前にも書いた。
ぼくはこの本を、世間に出て少しは嫌な目にあい、挫折も知り、自分の限界も感じつつ、それでもなんとか頑張ろうと思う若い社会人に読んでもらいたい、と思って書いていた。
・・・が、なんのことはない。そうやって勇気付けられているのは、まずは自分だったわけだ。

先日、発売一週間ほどで、都心のある書店からの報告を聞いた。
そこではよく売れているという。美しい本なので、若い女性が買っていくのかと思いきや、
「いえ。30、40代のビジネスマンの方が手にとって眺め、ぱらぱらとめくり、買っていきます」
とのこと。
件のO氏は「意外ですね」と感想を述べていたが、ぼくには意外ではなかった。すごく嬉しかった。この本を書いたぼくの気持ちは、ちゃんと読者に伝わっているのだ。本にできて、よかった。

書店の深読み?2005/11/23 00:44

いやぁ、今回の「誰もいそがない町」は、書店さんがわりと置き場所に迷わない本だと思っていたんですよ。たいてい、普通の小説の棚。たまに、女性作家のエッセー本のコーナー。ま、男だろうが女だろうが、ぼくはそういうの構わないんですが。

しかし、やってくれましたね。
渋谷の某有名書店では、なんと「海外文学(アメリカ文学)」の所にあったのだ!
あははは!
ここは、前の「東洋一の本」を「幻想・伝奇」の棚に置いた本屋なのだ。
大丈夫か、店員教育?

けれど、実は「誰いそ(略してみた!)」のテイストは海外ものに近い。ぼくがべたべたした日本モノが嫌いなので、そうなってしまうのだが・・・うーん、そうすると、この書店さん、意外にわかってるのか?