こんなにも、いそがない企画22005/10/19 01:19

(続き)
こうしてぼくは、番組のために、毎週1本ショートストーリーを書くことになった。
放送は日曜の朝だが、原稿がキチンと前日にあがるとは限らない。
時にはウンウンうなりながら書いて、本番数時間前にようやくFAXすることもあった。
時代は1990年代初めだ。まだメールは一般的ではない。ぼくはパソコンも持っていない。ただ、ワープロ専用機は使っていた。(が、この原稿は手書だった)
まだ、FAXがあるだけ楽だった。そのわずか5年前にはFAXも一般的ではなく、早朝に必要な原稿は、前の日に書いて放送局に置いておくか、朝に局に持っていくしかなかったのだから。

自分でも気に入ったものが、けっこう書けた。
反響もよかった。一度、ディレクターに言われたことがある。
「放送を聞いていたリスナーから電話がかかってきました」
それは、若いサラリーマンだったという。タクシーのラジオで聞いていたら、ストーリーがいたく心に感じいったらしい。で、あわててタクシーを降りて、公衆電話から(当時、携帯電話はない)
「原作を教えてください!」
と問い合わせてきた、という。
作家冥利に尽きる話だ。
ぼくは、実は、社会に出て数年のサラリーマンやOLさんの顔を想像しながら書いていたのだ。もう子供ではなく、とはいえ社会ではまだまだ弱い存在で、自分の非力さや挫折感も感じている人。そんな人が、日曜の朝に聞いて、なんとなく元気を取り戻したり、ほんわかした気分になってくれたらいいな、と思って書いていた。
だから、このエピソードは、とても嬉しかった。

こうして、順調に2年半がすぎた。
1994年春、アクシデントがおきた。
(続く)

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